inVisible School-見えない学校

インビジブルでは、「inVisible School-見えない学校」というプロジェクトを令和5年度富岡町心の復興事業の支援のもと実施しました。

この取り組みは、富岡町内外の災害公営住宅に住む人々に自分にとって大切な一品を持ち寄っていただき、その物と自身の関係を語るところから対話を始めるというものです。またその思い出の品と共に参加者一人ひとりのポートレート撮影も行いました。東日本大震災とそれに伴う原発事故から10年が経過した今だからこそ話すことができる自身の経験を他者と共有することで、被災者の心の復興に繋げたいと考えています。

事業実施にあたり、富岡町社会福祉協議会ならびにNPO法人コースターに相談を持ちかけ、彼らが関わる災害公営住宅の住民と少しづつ育み、最終的に4つの団地で30名の方にご参加いただくことができました。プロジェクトに持ち寄られた品々は、自作の芸術作品、家族や友人との写真、卒業アルバム、旅行で購入した記念品、幼少期の靴など多岐にわたりました。その一方で中には、大切なものをすべて津波で失ってしまったと語り、自身が大切にしていたものの記憶をたどりながら自らの話を共有してくれた参加者もいました。

30名との対話を通して、印象に残る物語や言葉を数多く聞くことができました。中でも一つ印象に残っている話は、富岡町への帰郷を決めた理由として「この土地の風が恋しくなった」という話です。震災前は農家をされていた女性は、どこの避難地域も不便はなかったが、馴染みのある風を感じることができず最終的に富岡に戻ることを決めたとのことです。

心の復興は、物理的な復興とは異なり、個々人によって回復の程度が違うことから継続的に取り組んでいくことが必要になります。震災から10年以上が経過した今も一部地域は帰還困難区域に指定されており、まだ震災後にその場所に戻ることが叶わない人もいることを忘れてはなりません。その一方で、富岡町に暮らす半数近い方が震災後に移り住んできた人という現状を見ると、過去と現在を繋げながら様々な形で対話を継続し続けていくことが富岡町の未来を考える上で重要なことなのかもしれません。異なる視点から対話を重ね、共に学び合う「inVisible School」が一つの対話の機会を生み出せたのであれば大変嬉しく思っています。最後に、このプロジェクトの実施にあたり、多大な協力をしてくれた富岡町住民課、富岡町社会福祉協議会、NPO法人コースター、そして参加してくれた全ての人々に厚く御礼申し上げます。